本記事では技能実習制度について、できるだけ簡単にわかりやすく解説していきます。
技能実習制度とは(概要)
外国人技能実習制度は、1960年代後半頃から海外の現地法人などの社員教育として行われていた研修制度が評価され、1993年に始まりました。
技能実習制度の目的・趣旨は、「日本で培われた技能・技術・知識を開発途上地域へ伝えるための人づくり」となっており、国際協力の推進とされています。
制度の内容は、技能実習生が、日本の企業や個人事業主などの実習実施者と雇用関係を結び、母国において修得が困難な技能などの修得・習熟・熟達を図るものとしています。
最大で5年間の滞在が許可されており、技能などの修得は、技能実習計画に基づいて実施されます。
技能実習生の受け入れメリット
企業(技能実習者)が技能実習生を受け入れるメリットは、5つあります。
- 素直で向上心の高い若者を受け入れることで職場が元気になる
- すでに基本的な技術を習得しているため、入社後の教育が比較的容易
- 職場の改善や生産性が高まる
- 事業の国際化、販路の拡大を目指せる
- 安定して人材を受け入れることができる
順に解説していきます。
素直で向上心の高い若者を受け入れることで職場が元気になる
技能実習生として日本に来る外国人は、素直な方が多く、真面目に仕事に取り組みます。
そのような技能実習生を受入れることで、現場の従業員だけでなく、アルバイトやパートにも良い影響を与えてくれます。
技能実習生と他の従業員がともに意欲的に仕事に励んでもらうことで、職場全体が元気になります。
すでに基本的な技術を習得しているため、入社後の教育が比較的簡単
技能実習生は受け入れ企業の職種について、現地にて事前に基礎技術を習得します。
また、入国前と入国後1ヶ月の間に、日本語(日常会話・専門用語)、日本の生活習慣や文化について、教育を受けて来ます。
そのため、入社後の教育が比較的簡単です。
職場の改善や生産性が高まる
技能実習生を受け入れ、技能等を指導することで、他の従業員が刺激を受けます。
それよって、職場の改善、安全衛生、コンプライアンスに対する意識が高まります。
事業の国際化、販路の拡大を目指せる
技能実習生が帰国した後に、現地採用ができれば、新たな人材を海外で雇用する手間を省けます。
そのため、海外進出のための人材確保で悩む必要がなくなるので、海外展開を考えている企業にとっては重宝します。
安定して人材を受け入れることができる
技能実習生は最長で5年という任期つきではありますが、1年毎に新しい実習生を受け入れる事ができます。
そのため、実習生がいる間に新たな実習生を受け入れ続けることで、安定した人材の確保が可能です。
技能実習生にとってのメリット
技能実習生にとってのメリットは、2つあります。
- 現地と比べて稼げる
- 日本で生活し、労働の対価に給与がもらえる
順に解説していきます。
現地と比べて稼げる
ほとんどの技能実習生は開発途上国が出身です。日本の給与水準は母国よりも高いため、母国の家族への仕送りや、貯金が可能です。
日本で生活し、労働の対価に給与がもらえる
世界水準で見ても、安全で衛生環境が整っている日本は、発展途上国出身者が多い技能実習生には魅力的な国の1つです。
そんな日本で、日本語と一緒に技術や技能を修得できることに魅力を感じ、働きにくる技能実習生は多いです。
技能実習生の受け入れ方式について
技能実習生を受け入れるためには、企業単独型と団体監理型の2つのタイプがあります。
- 団体監理型
- 企業単独型
2018年末時点では、技能実習生の人数ベースで団体監理型が約98%、企業単独型が約3%となっています。
順に解説していきます。
団体監理型
事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方式です。
企業単独型
日本の企業等(実習実施者)が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施する方式です。
技能実習制度の対象職種一覧(82職種・150作業)
2020年10月現在、技能実習生が従事できる作業は82職種・150作業とされています。
●の職種:技能実習評価試験に係る職種 です。
△の職種・作業は2号までしか実習できません。
1.農業関係(2 職種・6 作業)
職種名 | 作業名 |
耕種農業● | 施設園芸 |
畑作・野菜 | |
畜産農業● | 果 樹 |
養 豚 | |
養 鶏 | |
酪 農 |
2.漁業関係(2 職種・10 作業)
職種名 | 作業名 |
漁船漁業● | かつお一本釣り漁業 |
延縄漁業 | |
いか釣り漁業 | |
まき網漁業 | |
ひき網漁業 | |
刺し網漁業 | |
定置網漁業 | |
かに・えびかご漁業 | |
畜産農業● | ほたてがい・まがき養殖 |
3.建設関係(22 職種・33 作業)
職種名 | 作業名 |
さく井 | パーカッション式さく井工事 |
ロータリー式さく井工事 | |
建築板金 | ダクト板金 |
内外装板金 | |
冷凍空気調和機器施工 | 冷凍空気調和機器施工 |
建具製作 | 木製建具手加工 |
建築大工 | 大工工事 |
型枠施工 | 型枠工事 |
鉄筋施工 | 鉄筋組立て |
と び | と び |
石材加工 | 石材加工 |
石張り | |
タイル張り | タイル張り |
かわらぶき | かわらぶき |
左 官 | 左 官 |
配 管 | 建築配管 |
プラント配管 | |
熱絶縁施工 | 保温保冷工事 |
内装仕上げ施工 | プラスチック系床仕上げ工事 |
カーペット系仕上げ工事 | |
鋼製下地工事 | |
ボード仕上げ工事 | |
カーテン工事 | |
サッシ施工 | ビル用サッシ施工 |
防水施工 | シーリング防水工事 |
コンクリート圧送施工 | コンクリート圧送工事 |
ウェルポイント施工 | ウェルポイント工事 |
表 装 | 壁 装 |
建設機械施工● | 押土・整地 |
積込み | |
掘 削 | |
締固め | |
築 炉 | 築 炉 |
4.食品製造関係(11 職種・18 作業)
職種名 | 作業名 |
缶詰巻締● | 缶詰巻締 |
食鳥処理加工業● | 食鳥処理加工 |
加熱性水産加工食品製造業● | 節類製造 加熱乾製品製造 調味加工品製造 くん製品製造 |
非加熱性水産加工 食品製造業● | 塩蔵品製造 乾製品製造 発酵食品製造 調理加工品製造 生食用加工品製造 |
水産練り製品製造 | かまぼこ製品製造 |
牛豚食肉処理加工業● | 牛豚部分肉製造 |
ハム・ソーセージ・ベーコン製造 | ハム・ソーセージ・ベーコン製造 |
パン製造 | パン製造 |
そう菜製造業● | そう菜加工 |
農産物漬物製造業●△ | 農産物漬物製造 |
医療・福祉施設給食製造●△ | 医療・福祉施設給食製造 |
5.繊維・衣服関係(13 職種・22 作業)
職種名 | 作業名 |
紡績運転●△ | 前紡工程 精紡工程 巻糸工程 合ねん糸工程 |
織布運転●△ | 準備工程 製織工程 仕上工程 |
染 色 | 糸浸染 織物・ニット浸染 |
ニット製品製造 | 靴下製造 丸編みニット製造 生食用加工品製造 |
たて編ニット生地製造● | たて編ニット生地製造 |
婦人子供服製造 | 婦人子供既製服縫製 |
紳士服製造 | 紳士既製服製造 |
下着類製造● | 下着類製造 |
寝具製作 | 寝具製作 |
カーペット製造●△ | 織じゅうたん製造 タフテッドカーペット製造 ニードルパンチカーペット製造 |
帆布製品製造 | 帆布製品製造 |
布はく縫製 | ワイシャツ製造 |
座席シート縫製● | 自動車シート縫製 |
6.機械・金属関係(15 職種・29 作業)
職種名 | 作業名 |
鋳 造 | 鋳鉄鋳物鋳造 非鉄金属鋳物鋳造 |
鍛 造 | ハンマ型鍛造 プレス型鍛造 |
ダイカスト | ホットチャンバダイカスト コールドチャンバダイカスト |
機械加工 | 普通旋盤 フライス盤 数値制御旋盤 マニシングセンタ |
金属プレス加工 | 金属プレス |
鉄 工 | 構造物鉄工 |
工場板金 | 機械板金 |
めっき | 電気めっき 溶融亜鉛めっき |
アルミニウム陽極酸化処理 | 陽極酸化処理 |
仕上げ | 治工具仕上げ 金型仕上げ 機械組立仕上げ |
機械検査 | 機械検査 |
機械保全 | 機械系保全 |
電子機器組立て | 電子機器組立て |
電気機器組立て | 回転電機組立て 変圧器組立て 配電盤・制御盤組立て 開閉制御器具組立て 回転電機巻線製作 |
プリント配線板製造 | プリント配線板設計 プリント配線板製造 |
7.その他(16 職種・29 作業)
職種名 | 作業名 |
家具製作 | 家具手加工 |
印 刷 | オフセット印刷 グラビア印刷●△ |
製 本 | 製 本 |
プラスチック成形 | 圧縮成形 射出成形 インフレーション成形 ブロー成形 |
強化プラスチック成形 | 手積み積層成形 |
塗 装 | 建築塗装 金属塗装 鋼橋塗装 噴霧塗装 |
溶 接● | 手溶接 半自動溶接 |
工業包装 | 工業包装 |
紙器・段ボール箱製造 | 印刷箱打抜き 印刷箱製箱 貼箱製造 段ボール箱製造 |
陶磁器工業製品製造● | 機械ろくろ成形 圧力鋳込み成形 パッド印刷 |
自動車整備● | 自動車整備 |
ビルクリーニング | ビルクリーニング |
介 護● | 介 護 |
リネンサプライ●△ | リネンサプライ仕上げ |
コンクリート製品製造● | コンクリート製品製造 |
宿泊●△ | 接客・衛生管理 |
8.社内検定型の職種・作業(1 職種・3 作業)
職種名 | 作業名 |
空港グランドハンドリング● | 航空機地上支援 航空貨物取扱 客室清掃△ |
技能実習計画のモデル
技能実習生の受け入れ可能人数とは
技能実習生は無限に受け入れることが出来るわけではありません。
実習指導者(企業)の規模や、監理団体が特定管理事業か一般管理事業か、企業単独型、優良基準適合者など、様々な条件によって受け入れ可能な人数が決まっています。
基本人数枠(基礎人数)
実習実施者の常勤職員の総数 | 技能実習生の人数 |
---|---|
301人以上 | 常勤職員総数の 20分の1 |
201人~300人 | 15人 |
101人~200人 | 10人 |
51人~100人 | 6人 |
41人~50人 | 5人 |
31人~40人 | 4人 |
30人以下 | 3人 |
団体監理型の人数枠
団体監理型の場合、その団体が
- 特定管理事業
- 一般管理事業(優良基準適合)
どちらに属しているかによって、人数枠が変わってきます。
監理団体(特定監理事業)の人数枠
実習生 | 技能実習生の人数 |
---|---|
第一号(1年間) | 基本人数枠と同じ |
第二号(2年間) | 基本人数枠の2倍 |
優良な監理団体(一般監理事業)の人数枠
実習生 | 技能実習生の人数 |
---|---|
第一号(1年間) | 基本人数枠の2倍 |
第二号(2年間) | 基本人数枠の4倍 |
第三号(2年間) | 基本人数枠の6倍 |
企業単独型の人数枠
企業単独型の場合、
- 法務大臣及び厚生労働大臣が継続的で安定的な実習を行わせる体制を有すると認める企業
- 上記以外の企業
また、優良基準適合者かどうかで条件が異なってきます。
法務大臣及び厚生労働大臣が継続的で安定的な実習を行わせる体制を有すると認める企業
実習生 | 技能実習生の人数 |
---|---|
第一号(1年間) | 基本人数枠 |
第二号(2年間) | 基本人数枠の2倍 |
法務大臣及び厚生労働大臣が継続的で安定的な実習を行わせる体制を有すると認める企業(優良基準適合者の場合)
実習生 | 技能実習生の人数 |
---|---|
第一号(1年間) | 基本人数枠の2倍 |
第二号(2年間) | 基本人数枠の4倍 |
第三号(2年間) | 基本人数枠の6倍 |
上記以外の企業
実習生 | 技能実習生の人数 |
---|---|
第一号(1年間) | 基本人数枠 |
第二号(2年間) | 基本人数枠の2倍 |
上記以外の企業(優良基準適合者の場合)
実習生 | 技能実習生の人数 |
---|---|
第一号(1年間) | 常勤職員総数の10分の1 |
第二号(2年間) | 常勤職員総数の5分の1 |
第三号(2年間) | 常勤職員総数の10分の3 |
優良基準適合者とは
技能実習法に定められた以下の要件に適合した実習実施者(受け入れ企業)と監理団体のことを指します。
- 実習実施者について、技能等の修得等をさせる能力につき高い水準を満たすものとして主務省令で定める基準に適合していること(法第9条第10号)
- 監理団体については、技能実習の実施状況の監査その他の業務を遂行する能力につき高い水準を満たすものとして主務省令で定める基準に適合していること(法第25条第1項第7号)
面接〜入国〜帰国までの流れ
団体監理型を例に、実習生の受入企業で技能実習生が働くまでの簡単な流れは以下のとおりです。
組合の加入から入社までは最短でも約7~8ヶ月必要です。実習生入社までの流れ
- 組合への加入
- 組合での審査に合格
- 求人票、企業概要書作成
- 求人募集
- 現地にて面接・選考
- 人選の確定・入国前講習
- 外国人技能実習機構(OTIT)や入管への申請手続き
- 技能実習生入国・入国後の法定講習(入国後約1ヶ月間)
- 技能実習者(企業)へ配属・技能実習開始
技能実習生の受け入れにかかる費用
技能実習生を受け入れるためにかかる費用は、以下のとおりです。実習生1人の受け入れにかかる費用
- 入国までにかかる費用:約70~90万円(1回のみ)
- 入国後にかかる費用:約50~80万円(年額)
※上記は、実習生の給与・社会保険は含まれていません。
上記の金額を高いと見るか低いと見るかは、実際にかけている採用コストなどと見比べてみるのが良いかもしれません。
技能実習生の受け入れにかかる費用の詳細が知りたい方は別記事をご参照ください。
【記事準備中】「【最新】技能実習生受け入れ費用を徹底解説」
実習生を受け入れる前の注意ポイント
技能実習生を受け入れる前に、注意すべきポイントが2つあります。
受け入れ前にかならずチェックしましょう。
良い送り出し機関・監理団体かを見極める
かつて、失踪防止等を名目として技能実習生本人やその家族等から保証金の徴収等をしている不適正な送出機関が散見されたことがあります。
そこで新制度では、二国間取り決めにおいて適正であると認定された送出機関のみが技能実習制度に関わる事ができるようなりました。
適正な送出機関は、厚生労働省および法務省のホームページのほか、国別に外国人技能実習機構(OTIT)のHPに掲載されています。
失踪や罰則などのリスクを回避するためにも、利用または利用を検討している送出機関に関して、外国人技能実習機構(OTIT)が公開している情報等からチェックするのがおすすめです。
常に正確な最新情報を入手する
2017年に行われた調査にて、全国の労働局や労働基準監督署が監督指導を実施した約6,000 の実習実施者(受入企業)のうち、労働基準関係法令違反が認められた事業所が、約70%以上になったようです。
実は労働基準法を遵守していても、技能実習生に関わる技能実習法では違反となる場合があります。
特に、法定労働時間(1日8時間・1週間で40時間)を超えて労働(残業)を命じているなど、三六協定を提出している企業は、要注意です。
罰則を回避し、適正な技能実習を行う為にも、技能実習を実施する実習実施者(受入企業)は、常に正確で最新の情報を入手していく必要があります。
まとめ
技能実習制度について解説させていただきました。
今回の記事が、皆さまにとって技能実習制度・技能実習生に関して、少しでもお役に立てる情報となれば幸いです。